岡山県万成地方で産出する著名なみかげ石です。美しいうす紅色をしていることから、「桜みかげ」というきれいな異名があります。日本各地の産地名を冠した数あるみかげ石の中でも、サーモンピンクの色を持つ石は珍しいといえます。通常、花こう岩に見られるのは、雲母の黒、石英の半透明のグレー、それに長石の白色の3色ですが、万成みかげの場合、白の代わりに紅色の斑があります。この紅色は、カリウム(K)に富んだ長石で、その化学組成から「カリ長石」と呼ばれています。石材としては、建築用材、記念碑、敷石、墓石などに用いられます。
奈良市の南都銀行本店(旧館)の外壁に、この石が使われています。大正15年(1926)に建てられたギリシャ式建築。歴史を感じさせるベージュの外壁をよく見ると、淡い紅色の斑が見てとれます。現在、建物は文化庁の「登録有形文化財」に登録されています。
岡山県笠岡市万成町付近から産出することから、その名があります。「万成石(まんなりいし)」「竜王石」「ちゃぼ石」とも呼ばれています。採石場は、JR岡山駅から西へ5キロ、国道180号線に沿って伸びる旧山陽道に面した保安林の中にあります。
「みかげ」は、兵庫県六甲山のふもとの御影地方から産出された花崗岩を「御影石」と呼んだことに由来。それに、各産地名をかぶせて、それぞれ特色を持つ石材を区別しています。
花崗岩は、マグマが地下の深い所で徐々に冷えて固まった岩石です。ゆっくりと長い時間をかけて冷却する間に、徐々に鉱物の結晶が現れ、固化した岩石です。
稲田みかげが6000万年〜5000万年前の新生代にできた花崗岩であるのに対し、それよりさらに数千年前の中生代白亜紀に冷却、固結して生じた岩石です。
火成岩中の深成岩類に属し、正式には角閃石黒雲母花崗岩(Hornb1ede-Biotite-Granite)と呼ばれます。結晶質は粒状の極めて堅固なもので、鉱物分の大きさは石英3.O@、長石4.0@、雲母及び角閃石1.O@。石英28〜32%、カリ長石29〜36%、斜長石25〜30%、黒雲母及び角閃石8〜12%の割合で含まれています。とくにカリ長石が、万成石の特長である美しい淡紅色を発しています。
花崗岩によく見かける長石類は、ふつう白い鉱物ですが、万成みかげの場合、カリウムの成分が、ナトリウム、カルシウムと連続的に結合することで、淡い紅色に変化したと考えられます。